何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「Don」




 ベーマガにて、MSX2専用ゲームプログラムがハードの爆発的普及を受けてメジャーになっていったということは、前に触れたとおりです。MSX2は87年2月号を皮切りに間をおかず2ランダムコーナーに登場した後、87年4月号でとうとうプログラムコーナーのレギュラー入りを果たします。今回ご紹介する「Don」は、その記念すべきレギュラー昇格後初となる、ベーマガMSX2用作品です。

1面スタート。「押した方向に対して」というルールを頭にたたき込むべし。

 「Don」とは主人公の名前です。人の手が届かないであろう星の住民ドン君は、ここで最後の修行をしてこいという師匠イカ仙人の言いつけで、隣の星にやってきたが…というのがストーリー。その最後の修行とは、ボールをゴールに放り込むというものです。

3面。多数のブロックをいかにどかすかがポイント

 というわけで本作は当時の定番中の定番、ボールをゴールまで運ぶというオーソドックスな固定画面パズルゲームです。フィールド内にはブロックやボールが散らばっています。ブロックをうまいことどかし、ボールを転がしてゴールまで運びましょう。ボールが入ったゴールは消えます。全てのゴールを消せばステージクリアです。
 ブロックやボールを動かすためには、「POW」が必要です。POWはフィールドに落ちているハンマーを1本拾うと1増えます。POWがあればブロックは何度でも押せますが、ボールを押すと1減ります。POWはボールを動かせる回数、と言い換えてもよいでしょう。

MSX2」の6面。機種名は当時のパズルゲームおなじみのデザイン。

 悪く言えばいかにも「よくある」パズルです。ではあるものの、オブジェクトの動き方に工夫が見られます。動かせる物体には、「矢印」「R」「L」のどれかのマークが付いています。マークの付いた物体は、押した方向に対して、それぞれ「直進」「右斜め」「左斜め」向きに移動します。移動量は、ブロックが外壁や他のオブジェクトにぶつかるまで。ボールは3マス分。移動中のボールが他の物体に当たると、ワンミスとなってしまいます。残機を全て失うとゲームオーバーです。

カーソル右上+スペースでギブアップ。ゲームは極めて快適にプレイできる

 ゲームは全部で13面。制限時間はなし。失敗時のギブアップ機能やコンティニュー機能ももれなく実装。ただしコンティニューして全面クリアしても真のエンディングが見られないというマルチエンディング仕様。頑張って真のエンディングを拝みましょう。

どの面も最初にするべきはハンマーの回収。
ハンマーにあまり意味がないとは編さんが指摘していた。

 当時パズルゲームが多かったのは、STGやアクションゲームに比べて難しい技術を要せず、組みやすかったことも大きな理由でしょう。MSX2初のレギュラー作品がパズルゲームだったというのも、もっともなことです。
 オーソドックスなパズルゲームではあっても、本作はなかなか出来がよいです。慣れるまで多少戸惑うものの、一度飲み込んでしまえばルールはすんなり理解できます。キャラクターはきびきびと動きますし、オブジェクトを動かすのに「対象に向かってカーソルキーを入れつつスペースキーを押す」という操作が必要なため、「移動中に勢いあまって接触し、動かすつもりのないオブジェクトを間違って動かしてしまう」という、この手のパズルゲームによくある凡ミスがありません。パズルに集中できるゲームシステムも備わってますし、難易度もかんたんすぎず難しすぎず。それとMSX2ならではの鮮やかなグラフィックは、やはり見映えがよいです。

バッドエンド。ノーコンティニュークリアがグッドエンドの条件なのは
上達への巧みな動機付けだとおもう

 明快なルール。良好な操作性とゲームシステム。良質な問題。優れたパズルゲームは、これら三拍子がそろっているものです。内容にはもっと煮詰められる余地が散見されるものの、基本的な部分がよくできているのでストレスなく遊べるのが、本作の非常に優れたところです。編集部でも高く評価され、掲載号のベストプログラマー賞も獲得しています。


 本作の作者さんは、以前紹介した「ハイドパークシリーズと同じ方。だったらなるほど、出来の良さにも納得です。
 ちなみにコンティニューはゲームオーバー画面でカーソルキー左上。真のエンディングは作者さんらしい、SFめいた奇妙な余韻のあるオチ。続編を作ることも想定していたようです。