何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「かに道楽」




 Mファン90年10月号のファンダムは特別企画「大入」と称して、通常以上の数のゲームプログラムを掲載していました。その中にはNAGI-P SOFTさんのSLG「LAST WAR II」を含む大作も何本か含まれています。今回ご紹介する「かに道楽」は、その中でも目玉となっていた作品です。





 本作はザ・王道とも呼べる、サイドビュー式固定画面パズルゲームです。主人公はカニ。これを操り、各面決められた数の魚を食べましょう。しかし魚は入り組んだ地形の随所に散らばっています。さらに主人公はカニなので、大きくは動けません。できるのはカニ歩きこと左右移動と、キャラ一つ分のジャンプ、そして物を押すことぐらい。画面内にはバネやブロック、放り込んだ物体を90度向きを変えて吐き出すパネルといったオブジェクトがあります。数少ないアクションとこれらオブジェクトを駆使し、画面内を動き回る方法を考えるのが、本作のパズル要素です。

4面に到達。目下この面で停滞中(泣)

 全15面のステージはいずれも難問揃いです。2面から「落下しつつブロックを押す」なんてテクニックが要求され、頭脳に加えて指先のテクニックも必要なアクションパズルであることをおもいしらされます。
 パズル自体の難易度こそ高いものの、時間制限は存在しません。いちおう残機制を採りながらも実質無制限のリトライ&コンティニューと、好きな面や苦手な面から始められるステージセレクトも可能です。こんな具合に余計なことに気を煩わされず、じっくりパズルに集中できるところなど、実に心得た作りです。
 精緻に描きこまれたグラフィック、やけに細かいアニメーション、各面変わるBGM等、演出にも抜かりはありません*1。細部に至るまで気合いが入っており、打ち込みプログラムのパズルゲームでは間違いなく最上級の部類に入るでしょう。

ある意味衝撃の結末が待つエンディング。改造して見てやった(号泣)

 当時はMSX・FAN,MSXマガジン両誌の共催で「MSX大賞」が開かれていました。MSX累計出荷台数400万台突破を記念して、ゲーム・音楽・CGプログラムや論文のコンテストをするという企画です*2
 本作はその最高賞「MSX大賞」(ゲーム部門)に輝いた作品で、かの米屋のチャチャチャさんの名作「WHIZだもんね」を抑えての受賞です。それほどまでに華々しい作品ではあるのですが…どういうわけか当時の荒井、本作には一切注目せず*3、ザ・リンクスからダウンロードさえしてませんでした(汗)。


WHIZだもんね」と「LAST WAR II」。
どちらもユーザーに強烈な印象を与えた名作だ。

 注目しなかった理由。それは本作が「ザ・王道」のパズルゲームだからです。
 ルールに従ってフィールド内を動き回り、所定のアイテムを拾い集めて面クリアを目指すタイプのパズルゲームは、それこそ毎号のように掲載される定番中のド定番でした。ルールを工夫してもその多くは十が十一になったような違いでインパクトに乏しく、いい加減飽きが来ていました(おい)。パズルは解くのに時間と労力も要します。しかも隣ページはエキサイティングな大作SLGの続編「LAST WAR II」(おい)。
 どんなにグラフィックがきれいであっても「またよくあるパズルゲームか…」といった認識で、気にも留まらなかったというのが正直なところでした(大汗)。「定番」と言えば聞こえはよいですが、それは「ありきたり」と紙一重でもあります。


 「テトリス」があれだけウケたのは、その斬新さも大きかったのでは、とおもいます。

エディット機能でオリジナル面作成中。
よりゲームが楽しめる嬉しい追加だ。

 新鮮さに欠けることは確かですが、さすが大賞受賞作にふさわしく、ゲーム自体は高い完成度を誇ります。腰を据えて頭の体操を楽しむに、実によい作品でしょう。
 ついでに、本作は追加リストを入力することで、面エディット機能を付けることができます。掲載当時には、出たばかりのMSX turbo R・FS-A1STを賞品としたオリジナルステージコンテストが開かれ、多数の応募が寄せられました。

*1:その分圧縮されたデータの形式が煩雑で、非常に入力しづらかったぜ(泣)

*2:論文では、脳波でワイヤレスで操作できたり「FDタンク」でフロッピーディスクの入れ替えを省けるハードを夢想した「こんなMSXがほしい!」や、自分史作りや家族間のコミュニケーションツールとしてのMSXの可能性を述べた「MSXで”自分史”を!」といった作品が入賞しています。あらかたスマホで間に合ってしまう現在と鑑みるに、未来はそれほど夢あふれるものではなかったぜ(泣)

*3:ついでに白状するとMSX大賞という企画をやっていたことさえ今の今まで気付かなかった(おい)