何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「Jump」

素っ気ないタイトル画面

 入力よりも試遊とレビューの方がたいへんです。というわけで本日もMSXプログラムネタ。ベーマガ87年4月号より「Jump」です。
 シンプルな題名どおりシンプルなゲームです。自機を操作し、フィールド上に散らばる「クラブ」マークを拾いまくりましょう。ただしフィールドには巨大ローラー「貧棒(びんぼう)」が2本、左右に転がっています。これに轢かれたらアウトです。
 自機はジャンプが可能です。自機はジャンプ中も移動可能で、滞空時間も長めです。迫り来る貧棒は、これでかわしてやりましょう。
 内容だけなら、ファンダム等によくありそうなやつです。しかも本作はPCG不使用。起動するとMSXデフォルトのフォントのみでゲーム画面が描かれ、素っ気ないタイトル画面が現れます。画面のショボさに一度はガッカリするでしょう(おい)。

ゲーム開始。貧棒を避けつつクラブを拾おう

 しかし。動かしてみると、失望感は一瞬で吹き飛びます。
 まず度肝を抜かされるのは、巨大な貧棒のビジュアルです。貧棒は拡大スプライトを5枚並べて大きく描画され存在感が抜群。こんなのが2本、フィールドを左右に移動するのですからたまったものではありません。

貧棒をジャンプ! 大きなキャラクターと拡縮表示に目をみはらされる

 そして自機はジャンプすると、拡大して大きく表示されます。ゲーム画面はトップビューです。ジャンプの表現に遠近法を使っているわけですが、MSXには当然拡大縮小機能がありません。ですから、大きさの異なる複数のキャラクターパターンを用意し、高度によって切り替えて表示することで、拡縮表示を実現しています。
 「バーニンラバー」等、遠近法によるジャンプを盛り込んだゲームは、以前から存在していました。本作の作者さんは、ジャレコ/NMKの「バルトリック」に着想を得てこのゲームを作ったとコメントしています。今おもえば力業の手法ながら、力業ならではの迫力とダイナミズムがあります。

ゴール出現。しかし飛び込むのはまだまだ早い

 10個クラブを集めると、画面右側にゴールが現れます。そこに飛び込めば1局終了となります。
 しかしアツいのはこれから。それでもゴールに入らず、開始時に表示されている15個のクラブを集めきると、その時点でフィールドの色が変わり「エクストラモード」に突入するのです。むしろゲームはここからが本番だと言って差し支えありません。

エクストラモード突入! 大量得点のチャンスだ!!

 エクストラモードになると、クラブ1個の得点が500点から5000点になります。一気に10倍です。これまでとは比べものにならない勢いで得点が増えるので、いやでも白熱します。ただしエクストラモードで貧棒にやられると、ゲームオーバーになるのはもちろん、それまで稼いだスコアが半減されてしまいます。まさにリスク・アンド・リターン。作者さん曰く「『もう一つねばって取る』か『妥協してゴールインしてしまうか』とかいう葛藤をしていただく」ことが本作の趣旨なのだそうです。

妥協してゴール。シンプルなリスク&リターンの仕組みが巧み

 落ち着いて見てみれば、ゲーム自体はわりと単調です。やってることは終始避けては拾うだけ。時間がくればおしまいということもありませんし、スコアが上がるほど貧棒の動きが速くなるといった変化はありません。
 それでもそんなことを微塵も感じさせないのは、やはりダイナミックな見た目の迫力と、スリリングかつエキサイティングな駆け引きゆえでしょう。もっとよくできる余地はあれど、今のままでも十二分に面白い良作と言えましょう。


 ところで本作は、誌面のまま入力した状態ですと、画面の初期化がうまくいかずバグることがあります。原因はスクリーンモードの設定を、表示桁数設定の後にやっているため。MSX2等でSET SCREENを使ってデフォルトのスクリーンモードを変える等して、SCREEN0から起動すると発生します。3010行のWIDTH32とSCREEN1,3の順序を入れ替えれば直せます。