何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「ジャンケンロック」

あっさりしすぎのタイトル画面

 本日もMSXプログラムネタ。ポプコム85年2月号掲載の「ジャンケンロック」です。
 本作は面クリア型の固定画面パズルゲームです。主人公は配達夫。家まで荷物を届けるのが各面の目的です。しかしあたりには、世にも不思議な「ジャンケン岩」が転がり行く手を阻みます。うまくジャンケン岩を片付けて道を作り、荷物を届けましょう。まぁ、「フラッピー」とか「倉庫番」の仲間ですな。
 まさに王道中の王道、古典的パズルゲームの典型―悪く言えば「ありきたり」―なんですが、本作が特に優れているのは、そのルールです。岩を壊すためのルールとして「ジャンケン」を利用しているのです。

第1面「GO!」。さっそくやってみよう

 転がる岩は三種類。それぞれ「グー」「チョキ」「パー」の印が付けられています。ジャンケンのルールに従い、強い手の岩を弱い手の岩に押しつけると、弱い岩を崩すことができます。負けやあいこでは崩せません。
 ただ壊すだけではなく、この岩をどけるにはそれより強い別の岩を温存しなければならず、さらにそれを動かすためにはその周りにある岩を片付けるための岩が必要で…といった具合に、明快かつ効果的なこのルールのおかげで、パズルの奥行きが増しています。
 個性的なルールを追求すると、複雑になってわかりづらくなる嫌いがあります。しかし本作は、日本人なら誰もが慣れ親しんでいるジャンケンを採り入れることで、個性的なルールと明快さを両立しています。特にこのMSX版は岩がまんまジャンケンの「手」の形をしているので、より直感的に遊べます。

デザイン重視の面から難面までよりどりみどり。好きな面で遊ぼう。

 各ステージの難易度は簡単なものから難しいものまで様々。しかし無制限に使えるリトライ機能に加えてステージスキップ機能も完備。さらに失敗時のペナルティがありません。時間制限や残機・ゲームオーバーもなし。オールクリアを目指す必要もなく、気になる面だけを選んでじっくり取り組めるのも、非常に良いところです。
 敵キャラを出すなどして下手にアクションゲーム風にせず、多彩な面をとにかく解くことを楽しむパズルゲームに仕上げたことは、大正解でしょう。メインリストが短めで読みやすいのも良し。作りはどこか素っ気ないものの、遊ぶに不十分さはありません。文句があるとすれば、リトライやステージスキップのキー反応が悪いことと、エディットモードがないことぐらいです(おい)

オールクリア。
ステージスキップ機能でいとも簡単に見られるのでありがたみはない(おい)

 さて、「ジャンケンロック」はもともと富士通FM-7用として発表されました(ポプコム84年11月号掲載)。「ジャンケンロック」はポプコムでも人気が高かったようで、オリジナル発表後、程なく数々の機種で移植版が製作されています*1。そのひとつがこのMSX版です。
 その多機種版「ジャンケンロック」は、変わった体裁で公開されました。MSX版が掲載された85年2月号では、他にもPC88,P6,MZ-2200版等が同時掲載されたのですが、機種間でステージデータを共用しているのです。
 同号には各機種別々のメインリストと、共通のステージデータが掲載されています。手持ちの機種用のメインリストとステージデータを入力すれば、各機種で同一の面が遊べるという趣向です。ステージ数はなんと59面*2。打ち込みプログラムでは破格の数です。オリジナルのFM-7版(こちらは全25面)掲載時より、ポプコムでは読者からオリジナルステージを募集しており、その成果が反映されています。
 そもそも最初に掲載されたFM-7版の紹介文にはオリジナルステージの作り方も掲載されています*3。作者さんはもとから面を自作して遊ぶことを想定していたことがうかがえます。

MSX版「ROCKER」(「大全集I」収録)。ゲームのあらましはほとんどいっしょだ

 ところで。本作は以前ここで紹介したベーマガ発のパズルゲーム「ROCKER」とそっくりです。気になって調べてみたところ、面白いことがわかりました。「ジャンケンロック」と「ROCKER」は、双子の姉妹とでも言うべき関係で、もともと同じ作者さんが手がけたほぼ同じ作品なのです。
 「ROCKER」のオリジナルもやはりFM-7版で、ベーマガ84年10月号に掲載されました。作者は「ジャンケンロック」と同じ方。テキストやリストの書き方こそ若干違いますが、ルールとゲームシステムは全く一緒です。最大の違いはステージ数でしょう。「ジャンケンロック」よりぐっと少ない全5面です*4

「ROCKER」のステージを「ジャンケンロック」で再現。
データはほぼ共通なのでこんな芸当もかんたん

 「ROCKER」がベーマガ84年10月号で、「ジャンケンロック」がポプコム同11月号。実質的に、雑誌投稿における御法度「二重投稿」のような印象を受けますが、両誌ともども、お詫び記事が載ったという気配がありません。むしろ「ROCKER」はベーマガでも人気作品となり、こちらも各機種で移植版が発表されています。
 お咎めがなかったのは、両誌で微妙に内容を変えていたおかげだったのでしょうか。むしろ作者さんは、二重投稿になりうることを考慮して、微妙に内容を変えて投稿したのかもしれません*5。結果、ベーマガでもポプコムでも大好評を博したのは、それだけ「ROCKER/ジャンケンロック」の出来が良いことの証でもあるでしょう。


 先述したとおり、MSX版にはリスト由来のバグがいくつか存在します。また、掲載されたリストはグラフィックデータ部分が欠落しており、そのままでは遊べません。翌85年3月号にて公開された追加リストも入力する必要があります。修正方法と追加リストは以下の通りですのでどうぞご参考に。





 最後にバグ情報と「ROCKER」について言及したサイトを貼っときます。修正方法はこちらのEnri's Homepageさんと同じものです。


cmpslv3.stars.ne.jp
minosoft.cocolog-nifty.com

*1:当時の常で、読者による「勝手移植版」だろう。

*2:誌面では58面と称しているが、おそらく後述するリスト内のバグのためだろう。実はどの機種でも、リストの不具合によって、そのままでは全ての面は遊べなかったりする。

*3:移植版の記事でも作り方が紹介されている

*4:FM-7版「ROCKER」でも、オリジナルステージの作り方が解説されている。

*5:若干後発の「ジャンケンロック」の方が、リストの書き方がやや洗練されている。ステージ数も大幅に増えていることを考慮するに、「ROCKER」を、より長大なリストを掲載していたポプコム向けに改良したのが「ジャンケンロック」ではないかという気はする。