30年以上前のMSXが現行機種だった時代、荒井が一画面プログラム*1の収集にあまり熱心でなかったのにはあれこれ理由があります。
「ザ・リンクス」*2に加入していたため、ファンダム作品はダウンロードし放題ではありました。しかし接続するだけ料金がかかるため、何から何までダウンロードするのは贅沢でしたし、記録メディアのフロッピーディスクもそれなりに高価でしたので、とりあえず保存しておく、ということもはばかられました。ハードディスク?何それ??(号泣)*3
ダウンロードする作品は、どうしても誌面でスクリーンショットや紹介文を見て、これは、とおもった物のみに限られます。そうするとどうしても見た目に秀でた作品や、入力に手間のかかる大作、好きなジャンルのゲームに偏ってきます。グラフィックを省かれがちで、その気になればすぐに入力できる一画面プログラムはどうしても分がありません。
前置きが長くなりましたが、今回紹介する「謎の物体○(まる)」は、スクリーンショットを静止画で見る限りは、そんなおもしろそうでもありません(おい)。しかし実際に動いているところを見ると印象は一変します。
本作はMファン89年6月号に掲載されました。一言で言えば的当てSTGです。画面上を左右に動く標的を、ミサイルで狙い撃ちます*4。命中すれば次の面へ。弾が切れたらゲームオーバー。他と違っているのは、発射後にミサイルの誘導が可能なこと。少しぐらい狙いがズレてもリカバリーのチャンスがあるという仕様が、ゲームをよりアツく、適度な難易度にしています。
ただし誘導操作には加速度が付きます。ズレが大きいほど、狙い通りに動かすのは難しくなります。軌道修正できる量は若干に過ぎません。誘導はあくまで補助と考え、よく狙って撃つことが基本です。
本作の優れたところは、そのエフェクトにあります。撃ったミサイルは煙幕を噴きながら滑らかな軌道を描き、画面奥めがけて飛んでいきます。命中すると的は効果音と共に砕け散ります。複数の円によってリアルタイムかつ高速に描かれるミサイルの軌跡は美しく、的が砕ける様も爽快です。
この煙幕はグラフィック描画命令ではなく、大小異なった大きさのスプライトパターンを連ねることで構成されています。スプライトは起動時にグラフィック画面にCIRCLE命令で描いたパターンをVPEEKで読み出し、SPRITE$*5に送ることで定義。データ量を少なくしながら、多数のスプライトを実現しています。粗くとも描画の早いスプライトを採用したことが、爽快な面白さを決定づけています。
作者はファンダムの常連投稿者Nu~さんです。同氏はこの作品の前にも「フロントアタック」等、3D表示を意識した作品をいくつか投稿していましたが、その最後となる本作は完成度も高く、編集部でも絶賛していました。
...と、このように、弄った感触と動いている様子は「おっ!」とおもわせるものに非常に恵まれているのですが、静止画では単に解像度の粗い円が連なっているようにしか見えず、当時まったくおもしろそうには見えませんでした(おい)。ですので触れるのが今の今まで遅れてしまったというわけでして(汗)。
作者Nu~さんの念頭にあったのは、「アフターバーナー」の追尾ミサイルの挙動だったようです。
「アーケードゲームの迫力をご家庭で!」は、80年代(非アーケードの)コンピューターゲームの一大テーマでした。当時の貧弱なハードにおいて、アーケードゲームの完全再現は無理な芸当でありましたが、優れた作り手は、巧みなデフォルメや取捨選択によって、その醍醐味を再現したものです。
グラフィックに凝った緻密な絵面を実現していれば、荒井も当時本作に注目したことは違いありません。しかしそれと引き替えにゲームスピードが遅くなったり動きがガタガタになっていたら、リストが無用に長くなっていたら、果たして面白いゲームになっていたでしょうか。
そこはさすが名手Nu~さん、捨てるところと活かすところの見極めが見事です。投稿プログラムとしてはこれが正解なのだとおもうのです。