GR III。PhotoShop Elementsで縮小
気づけば8月はどこの山にも登ってませんでした。中旬以降はぐずついた天気が続き、休みはことごとく雨(泣)。このまま夏が終わってたまるかということで、8月最後の日、天気が保ちそうだったのをいいことに*1、鳥海山に登ってきました*2。
あまりに有名なので詳しい説明は略(おい)。遊佐町にある山形県で一番高い山です。
鳥海山はこれまで様々なところから何度も眺めています*3。にもかかわらず登頂したことが一度もありません。でかい山ゆえ時間を要するので、なかなか登りに行けるものでもないのです。せいぜい中学3年の学年登山で吹浦口から御浜小屋まで行ったぐらい。身近にありながら別のところから眺めては、あのてっぺんに立ってみたいと憧れる山でありました。
ところが近年、比較的短時間で日帰りできるコースの存在を知り、ならばと決行した次第です。
今回登ったのは湯ノ台コース。鳥海登山最短コースとして知られます。一方で急登が多く、迷いやすい雪渓もあり、中上級者向けであるとも紹介されます。登山口は玉簾の滝で有名な旧八幡町升田地区から鳥海高原ラインを上り詰めたところ。念入りに入山ポストに登山届を投函して、朝8時過ぎに行動開始です。
滝ノ小屋を早々に過ぎ、沢の中を進むような道を経て最初の難所・八丁坂へ。とはいえ火打新道に比べれば足慣らしみたいなもんです(本当かよ)。登りきると程なく河原宿に到着。山頂を望む開けた台地に水量豊富な小川が流れ、あたりは文字通りの河原です(おい)。標高1550メートルの山中の河原。鳥海山が水に恵まれた山であることをおもい知るのでありました。
河原のほとりには山小屋の廃墟が半分ぺしゃんこになりつつ残っています。これが「宿」のゆえんなのでしょう。この山小屋、つい10年ほど前までは営業していたのだとか。絶好の立地でありながら廃止になったことが、いまさらながら惜しまれました。
問題はここから。河原宿を過ぎると、道は心字雪渓にさしかかります。勾配こそ緩いものの見通しが利かないときは迷いやすいとの評判で、湯ノ台コース最大の難所とされています。へなちょこ登山者荒井、いかにここを無事に抜けるかが最大の懸案で、状態によってはここで引き返すつもりでありました。できるだけ天気がよい日を狙って来たのは、ひとえにここを安全に通過するために他なりません。
果たして。到着してみると、風こそ強かったものの周囲は曇りもなく、行く手がくっきりと望めます。さらにかなりの雪が消え、夏道が明瞭に現れていたのです。これなら行けると確信し、随所にペンキで付けられた目印を頼りに進むことしばらく、無事雪渓を抜けたのでありました。
迷いやすいと評判の一方、雪渓は湯ノ台コースの見どころの一つでもあります。夏でも豊富に雪が残り、この雪渓歩きを楽しみにしてくる登山者も多いと聞きます。ところが温暖化の影響か、近年は雪が解けてしまうことが増えたそうで、今年はだいぶ雪渓が小さくなっていたのだとか。歩く分には迷わずに済みますが、このままでいいのだろうかという気もします。
雪渓を抜ければ、あとは道迷いの心配はありません*4。雪渓から続くあざみ坂をぼちぼち登っていくと、周囲に展望がひらけてきます。左手にうかがえる大きな水面は鳥海湖。30何年前の学年登山で拝んで以来です。振り返れば、今し方歩いてきた雪渓や河原宿がはるか下。これなら行けるぞと気勢も上がります。
伏拝岳(ふしおがみだけ)で外輪山の稜線に上がると茂みは姿を消し、荒涼とした岩と砂の光景に変わります。知ってはいても実際に目にすると、ここも火山であることを改めて印象づけられます。外輪山に沿って東側に回り込めば、第一の目的地・七高山(しちこうさん)に到着です。
七高山は外輪山の最高地点です。標高2229m。山頂とはまた別なのですが、ここにはぜひ見ておきたいものがありました。一等三角点です。当然山形で一番高いところにある三角点でもあるので、極点大好き人間ならば決して外せません*5。
雲やガスですっきりとはいかないものの、切れ間から眼下に山並みや平地をうかがうと、多くの一等三角点の山同様、七高山も抜群の展望であることがわかります。他の山にあてはめれば実にてっぺんらしいてっぺんで、あたりには数々の石柱が建ち並び、休憩している人も多数でした。
山形一高い一等三角点を拝んで満足したところで、いよいよ山頂を目指します。山頂は新山と呼ばれるところで、外輪山の内側にあります。外輪山の内側に下りる道は石だらけの急斜面で、過去には死に人も出たことがあるのだとか。滑ったり転んだり石を落とさないよう気をつけながら底まで下りたら、最後の登りに取りかかります。
新山一帯は、そこだけ灰色の柱状節理が盛り上がり、ジャングルジムのようになってました。ところどころ巨岩が尖塔のように突き出す様など、これまでとは異次元レベルで違う光景です。RPGでいうならラスボスだとおもっていた敵をやっつけたら秘密の入り口が見つかって、真ラスボスのいる空間が現れるようなもんです(おい)。足場は心許なく、気を抜いたらやられます*6。さすが山形最高峰の最高所、最後までかんたんには登らせてくれません。
この岩場の正体は、噴火による火山ドームです。200年前の火山活動で噴き出たマグマが固まり、この異空間が出現したのだとか。目印に従い岩場を両手両足を使ってよじ登った末、とうとう山頂にたどりつきました。
山頂は標高2236m*7。山形県の最高地点です。永年憧れ続けた山形のてっぺん。そこに立った気分は感無量でした。その昔日本一周した際、「山形県民なら鳥海山はぜひ登った方がよい」と薦められたことがありました。あれからおよそ20年。なるほど、そういうことだったのか、とようやく確かめることができたのでありました。
てっぺんで即席あんパン*8の昼食にした後岩場を下り、新山直下にある大物忌神社の本宮に参拝。せっかくだからとご朱印と山頂限定販売の「百花典」こと、鳥海山の高山植物図鑑をいただきます*9。その後来た道で外輪山を登り、伏拝岳から再び湯ノ台コースをたどり、帰途に就いたのでありました。
往路で急いだ分、復路は花を撮ったり双眼鏡を取り出したりと、多少のんびりしながらの道中です。この日は絶えず強風で、外輪山ではときおり白いガスが視界を隠します。それでもガスが途切れると、庄内平野や象潟方面の展望が開け、その向こうに日本海が広がりました。酒田の方に目を向けると、最上川や酒田港も見えます。月山は残念ながら雲の中。展望はすっきりとまではいきませんでしたが、それでもこれくらい拝めれば、初回としては御の字でしょう。一方で強風対策や歩き方等々、今後の山歩きの課題もかんがえさせられた山行ともなりました。
鳥海山がふもとに様々な恵みをもたらしている、ということは知っていて、実際にいくつか目にもしています。それでも登ってみると、そのゆえんが実感として迫ってきます。特に高山であるにもかかわらず、随所で水が得られるので水には全く困りませんでした。「水筒の要らない山」とさえ称されるのは伊達ではありません*10。火山が育んだ圧倒的な自然と恩恵。ようやく宿願を果たし、この山があることは郷土の誇りだ、とつくづく感慨を新たにしたのでありました。
最後にいつものコースタイム。累積標高差が1100メートルくらい。登りより下りの方がたいへんです(おい)。
8:09/湯ノ台口-8:21/滝の小屋-8:37/八丁坂-9:05-9:11/河原宿-9:22/大雪渓-9:39/ケルン-10:03/小雪渓-10:14/あざみ坂-10:44/伏拝岳-10:57/行者岳-11:15-11:20/七高山-11:23/虫穴分岐-11:50-12:11/新山(昼休憩)-12:30-12:41/御室小屋・大物忌神社-12:56/虫穴分岐-13:28/行者岳-13:35/伏拝岳-14:06/あざみ坂出口-14:13/小雪渓-14:37/ケルン-14:40/大雪渓-15:06/河原宿-15:45/八丁坂出口-15:55/滝の小屋-16:07/湯ノ台口