何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「スイカわり」

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素足へと集める泡の脆さよりスイカは傷つきやすいから(違)

 そろそろ夏も終わりですがこの期に及んで夏っぽい作品のご紹介です(おい)。というわけで本日はMファン89年7月号より「スイカわり」です。


 本作はMファンではおなじみの名手Nu~さんによるスイカ割りゲームです。舞台は波が打ち寄せる砂浜。目的はこのどこかにあるスイカを探しだし叩き割ること。プレイヤーの位置こそ目に見えますが、スイカは表示されません。
 画面上部に「みぎ うえ」といった具合に表示されるのは、「ギャラリーの声援」こと、プレイヤーの現在地からみたスイカのありかです。これを頼りにスイカに近づき、ここぞという場所に来たらスペースキーを押しましょう。見事スイカが割れたら次のステージへ。なかったら再び同じステージをやり直しです。

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バシッという快音とともに見事命中。効果音もまた良いんだ。

 声援はかなり正確で、これに従っていればまず十中八九外すことはありません。これだけでしたらかんたんすぎてゲームになりませんが、そこはさすがNu~さんです。本作をおもしろくしているのは「打ち寄せる波」と「スイカの移動」というフィーチャーです。
 波は無意味に寄せては返しているのではありません。プレイヤーが波に巻き込まれるとその時点でアウトです。さらにスイカにはなぜか「足」が生えているという設定で、絶えず動き回っています。ですので常に波の動きに気を配りつつ、動き回るスイカを声援を頼りに追跡するという作業を同時にこなさなければ、スイカはいつまで経っても割れません。

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波の各パーツを色分け表示してみた。
この工夫には舌を巻く。

 技術面でも本作はおもしろいことをやっています。先が細くなっている波の表示は、MSX1のスプライトの水平方向表示制限を利用しています。長方形の同じ形のスプライトを縦に少しずらしながら横に並べて表示させると、優先順位の低い部分が欠け、先が細くなって見えるのです。各スプライトの色を変えたり、MSX2のスクリーン5モードで実行してみたりすると、このからくりがよく分かります。


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 スイカ割りゲームというものは、自作プログラムではちょくちょく見かけたような気がします。見えないという制約、標的を探り当てる駆け引き、命中した爽快感等々。スイカ割りのルールや醍醐味をどうコンピューターゲームに落とし込むかという命題には、多くの制作者を刺激するものがあったのかもしれません。
 本作は実際のスイカ割りとはかなり異なるものの、Nu~さんらしいツボを押さえた作りで、スリルとかもどかしさや気持ちよさとでもいえばいいのか、あぁ、これはなるほどスイカ割りのゲームだと納得させるものを感じます。