変わったプログラムが見つかったので入力してみました。というわけで本日は「BOM」という作品をご紹介。
一筆書きパズルというのも、自作ゲームプログラムでは、しばしば見かけるものでした。一筆書きの要領でマイキャラを移動して、フィールド上の空いたマスをすっかり埋めなさい、というやつ。
本作は「基本」その一筆書きパズルです。フィールド上に青と白のパネルが敷き詰められています。自機・矢印を動かすと、踏んだパネルの色が反転します。自機は向きに対して前方・左右への移動が可能です。後退だけはできません。この性質を利用して、フィールドを青か白一色に変えましょう。タイムはより早く、手数は少ないほど好成績です。
「基本」なのは、その自由度の高さゆえです。よくある一筆書きパズルは、たいがい解法が決まっているものです。決められた手順を間違えると手詰まりになってギブアップ、最初からやり直し…というパターンですが、本作の場合、フィールド上に障害物はなし、後退以外は自由に移動可能・何度でもパネルを塗り替えできるというルールであるため、「ハマリ」というものが存在しません。パズルらしく最短手を模索する遊び方ができる一方、好き放題にフィールドを塗り替えて暴れ回るという「ドラゴンスレイヤー」のような遊び方も可能です。ですのでこの手のパズルゲームにありがちな、一手でも失敗したら即アウト、といった緊張感がありません。本作にはルービックキューブのような、ギミックを楽しむおもちゃのような感覚があります。成績を気にせず気軽に好きなように遊べるので非常に良いです。
さて、本作が変わっているのは、発表された媒体です。本作は雑誌掲載プログラムではありません。ブラザーが展開していたソフトウェア自動販売機「TAKERU」の広報誌「TAKERUわぁるど」Vol2に掲載されたものです。
1991年、TAKERUの新モデル切り替えに伴い、ブラザーではユーザークラブ「TAKERU CLUB」を発足。それを記念したプログラムコンテストを開催すると同時に、ショートプログラムを募集していました。本作はそのショートプログラム応募作です。ブラザーでは、優秀作をTAKERUで販売する腹づもりだったようです。
記事によるとショートプログラムはけっこう応募があったようですが、コンテストは低調でした。コンテスト応募作は全機種合わせてもたったの5本。時代が昭和から平成に変わり、新しい年号に慣れつつあった1991年という時期、ホビーパソコンでのプログラミングという文化はすでに下火になっていました。
にもかかわらずこのような企画を開いたのには、その後のTAKERUの展開とも関係があるようにおもわれます。90年代、TAKERUは同人ソフトの販売に力を入れるようになります。後世語られたところよると、パッケージソフト全盛の当時、TAKERUは苦戦を強いられていたのだそうです。そのためブラザーは、TAKERUならではの売りとなるものを模索していたのだとか。そのひとつが同人・自作ソフトだったのです。
ブラザーは同人ソフトにTAKERUの活路を見いだそうとしていたのかもしれません。その展開は一次市場の衰退にともない同人が盛んになったMSX界の動向と合致し、TAKERUは末期のMSXを支える存在となりました。