何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「DREAM IN PIANIST HEIPEI」

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 例によってプログラムは細々と入力してはいるのです。いつものごとく動作確認兼のバグ捕りと紹介文書くのが大変なだけ(おい)。というわけで今回ご紹介するのはポプコム88年2月号から「DREAM IN PIANIST HEIPEI」です。


 作者はかの「UNCHANMAN」と同じ方。出来はさておき「UNCHANMAN」は強烈な印象を残した作品でした。その作者さんが作ったというだけである種の期待を禁じ得ません(おい)。
 バトルアクションゲームの「UNCHANMAN」からうって変わって本作は音楽パズルゲーム。ピアニストを夢見る少年・平平平平(ひらたいらへいぺい)君が、夢枕に現れた祖父・平平弘史(ひらたいらひろし)に導かれ、一流ピアニストを目指して夢の中で修行するというストーリーです。名前が釣りキチ三平みたいですな(おい)。


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 各ステージはパズル面とピアノ面からなります。パズル面では平平君を動かし、譜面から飛び出した音符を楽譜に戻していきます。やることは所定の音符ブロックを動かし楽譜まで持っていくだけ。「フラッピー」や「倉庫番」等々と同じです。よく言えば王道。悪く言えばありきたりなやつ(おい)。
 さすがに作者さんもルールに違いを出そうとしたのか、二種類ある音符ブロックはそれぞれに挙動が異なります。そこを考えてブロックを動かすのが肝ですが、それほど難しくはありません。全ての音符を楽譜に詰め込んだら、パズル面はクリアです。


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 ピアノ面はパズル面で元通りにした楽譜を練習する、という趣向です。五線譜の上を右から音符が流れてきますので、画面下の鍵盤からカーソルで同じ音を選び、スペースキーで弾きましょう。一つ弾くと次の音が流れてきます。音符が流れている間に弾けないと、ワンミスの上もう一度やり直し。全て弾き終わると祖父弘史が出来を判定し、見事合格すればステージクリア、落第するとパズル面からやり直しです。面が進むほど音符のスピードが上がり、メロディも長く複雑になり、どんどん難しくなっていきます。
 実はピアノ面は、どれだけ間違えずに演奏できたかという判定はしていません。一音でも間違えたら失敗で、もどかしい操作方法もあってなかなかに厳しいです。五線譜を見ずとも弾けるよう、曲の音階をすっかり覚えてしまうのが合格のコツです。
 そんなこんなで全5面をクリアすればエンディング。果たして平平君は一流ピアニストになれるのか!?...というゲームです。

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起動中の画面。ここからもうMSX2ならではなかんじ

 本作はMSX2以降用。オールBASICで書かれています。素晴らしいのはオープニングからエンディングに至るまで、しっかりBGMが付いているところ。音楽を題材にしたゲームであるからには、BGMは必ず欲しいもの。プレイ中の盛り上がりが違います。ほぼベタのPSG三声ながらピアノっぽい曲を鳴らしているのも、ピアノ修行らしさを感じさせて非常によいです。
 MSX2のスクリーン5仕様で描かれたグラフィックもカラフルで見栄えは上々。画面上では祖父弘史がさまざまなメッセージで随時平平君を叱咤激励してくれますし、裏技や隠れキャラも満載。「UNCHANMAN」譲りの楽しい雰囲気も健在です。作者さんは「UNCHANMAN」の後、PV-7からMSX2に乗り換えたようですが、順当な進歩が見られます。

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ステージ開始。パズルは初見でもなんとなくクリアできる程度の難易度。

 一方で作りの甘さもそこかしこに目立ちます。特にキャラクターのチラつき。パズル面ではキャラクターを動かすとチラつきます。MSXお得意のスプライトではなく、ビットマップグラフィックで描画しているゆえですが*1、ここはいただけないとポプコムの寸評で指摘されています。オールBASICゆえの遅さや若干の操作性の悪さ、プログラムに数残るバグも気になるところです。
 とはいえゲーム自体は難易度もほどほど、オーソドックスなパズルと素朴な音楽テストの組み合わせはよい変化で、作者さんならではのノリも加わり、なかなか楽しく遊べます。物語を感じさせる展開や演出が見られるところも一目置きたいポイントです。問題点は多かれど、ダメと斬って捨てるには惜しい魅力が詰まっています。

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パズル面クリア。
パズルで元通りにした譜面をピアノで練習するという設定ではあるのだが。

 さて、本作は音楽を題材にしたゲームでありながら、その割に、音楽を採り入れたギミックは多くはありません。パズル面のルールに音楽は関係ありませんし、音階を見て弾かせるとはいえ、ピアノ面の内容は「メロディを奏でる」とはほど遠いものです。音楽のゲームなのに、ゲームシステムは実はあまり音楽を使うものではありません。
 現代の視点からすると、もっと音楽をフィーチャーしてほしかった、という物足りなさをおぼえますが、それは酷な要求かもしれません。


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 この作品が発表された88年初頭、「お手本に従ってリズムを刻むゲーム」「譜面に従ってメロディを演奏するゲーム」は一般的ではありませんでした。そういうゲームの発想がなかったのかもしれません。あってもハードの限界で作れなかったのかもしれません。ともあれいわゆる「音ゲー」が登場するのが90年代中盤。「パラッパラッパー」や「ビートマニア」は夢のまた夢、でありました。そんな時代に、MSX-BASICでフレーム単位の音楽・映像とキー入力の管理をするゲームを作れ、というのはどだい無理な話でしょう*2

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最終レッスン開始。練習曲がエンディング曲になるという展開が燃える。

 このゲームの最終レッスン曲は「エンディング」という名前です。これをクリアするとその曲がエンディングデモ開始のジングルになるというなかなか憎い演出なのですが、これをもう一歩推し進めれば、音楽でもっと凝った演出ができたのではないか、という惜しさも感じます*3
 たとえば「HEIPEIのテーマ」とでもいったメインテーマとなる曲を用意しておいて、作中でことあるごとに流すようにしておいて、さらにこれを最終レッスンで出題して、それがエンディングテーマになる、という流れだったら、もっと盛り上がったのでは、「音ゲー」は無理だとしても映画音楽のような演出は可能だったのではないか、と夢想してしまいます。
 まぁ、2年前まで「UNCHANMAN」を作っていた中学生にそこまで期待しても、という気はしますが(汗)、効果的な劇伴でも評価された「ジーザス」は前年すでに登場していました。


 このゲームはバグと裏技が多いです*4。最後にこちらをいろいろ紹介して結びとしましょう。


・残機10でスタート
 ゲームスタート時「H」キーを押す。
 CAPSキーはロックしておくこと。以下同様。

・3面からスタート
 同じく「O」+「N」キーを押す。

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隠れキャラひらたくん出現。ウンチャンマンにも出てたっけな。

・ひらたくん出現
 各面所定の座標で敵と衝突する。取るとパワーが全快する。

・無敵モード
 一度でもピアノテストに合格すると、ギブアップするかテスト不合格でやり直しになるまで、パワーが減らなくなる。

・敵が消える
 各面スタート時(ステージ描画終了時)にリターンキーを押す。

・コンティニュー
 ゲームオーバー画面で「C」+「Q」キーを押す。

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バグ情報。こうしないとED曲が正常に再生されない。

*1:一応自機や敵キャラの表示にスプライトも使っていますが、当たり判定用に小さなスプライトをビットマップキャラに重ねて表示する、という使い方をしています。モード2スプライト使えばいいのに!

*2:「リズミカルにキーを押すゲーム」「映像に合わせてタイミングよくボタンを押すゲーム」だったら、80年代中盤にはかなり高度なものも存在していました。しかし「リズムに合わせてキーを押すゲーム」「映像に合わせてメロディを奏でるゲーム」ではなかったのです。

*3:そのジングルとエンディングのメイン曲がどうして違うの!

*4:ついでに誌面の印字品質が悪くてリストが判別しづらく、入力するのに苦労しました。