何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

歳末一画面プログラム祭りファイナル~千秋楽

「Advantage P-1」

 ここしばらく別のプログラムばかり紹介してましたが、忘れたわけではないのです(おい)。というわけで歳末一画面プログラム祭りもいよいよ大詰め。本日はMファン91年8月号と同9月号より、残った作品全てを一挙ご紹介です。


 「Advantage P-1」(91/8)。これまたおなじみ「ハイパーオリンピック」系の連打徒競走ゲームです。この手の連打競争ゲームはあまりにありふれているため、他との違いを打ち出せなければ見向きもされません。やみくもに連打しても逆効果、というのもこれまたよく見る工夫ですが、本作はさらにもうちょっと工夫を加えています。
 本作のランナーはボタンを押しっぱなしにするだけで走ります。しかし押しっぱなしにしていると疲労で体が赤くなり、さらにそのままにしていると転んでしまいます。転ぶとしばらく動けなくなってタイムロスとなります。
 ですのでスムーズに走るには、ポン、ポン、ポン、とある程度の間隔をおきながらタイミング良くボタンを押しては離すという操作をすることになります。キャラクターのスムーズなアニメーションもあって、ひたすら連打するタイプの徒競走ゲームとはまた違う気持ちの良い操作感覚が味わえます。基本は2P対戦ゲームでありながら、一人黙々タイムアタックに挑むという遊び方もできるのも、ぼっちゲーマーにはありがたいですな(おい)。

「ノック&ノック」

 「ノック&ノック」(91/8)。ファンダムでは比較的見かけた捕球ゲームです。作者は「つりぼりやさん」と同じくTOMすけさん。二匹のカエルが野球のノックをしています。プレイヤーは捕球側のカエルを操作し、ノッカーが打ってくるボールをグローブに捕らえましょう。5球キャッチでラウンドクリア。全10ラウンドで一周です。逆に各ラウンド5回ミスするとゲームオーバーです。
 打球は様々な方向に飛んでくるのはもちろん、ライナーだったりゴロだったりと、飛び方にもバリエーションがあります。追いつかない場合はグローブを右側に出して捕球することも可能です。また、前の方でキャッチするほど高得点とか、ミスの回数が多いほどラウンドクリアボーナスが高くなるといった稼ぎ要素も実装。1画面ながらなかなか凝ってます。動作も至って快適。この手の捕球ゲームではハイレベルな作品です。

「秩序回復」

 「秩序回復」(91/8)。お堅い題名ですが、中身はいたってシンプルなパズルゲームです。画面左上に、1から9までの数字がバラバラに並んでいます。適宜順序を入れ替え、順番どおりに並べ直しましょう。
 カーソルで一つの数字を選ぶと、選んだ数字を中心にそれに隣接するいくつかの数字が、回転しながら対称に場所を入れ替わります。このときのスムーズなアニメーションが見どころです。

入れ替え中。数字はスプライトで表示している。

 この回転のおかげで、ルービックキューブテンビリオンのようなギミックの面白さが加わっています。ひたすら動かしまくって収拾がつかなくなっても、ボタン一つで初期配置に戻せますので、思い切りぐるぐるぶん回しましょう(おい)。

「並べ、ネコ達よ」

 「並べ、ネコ達よ」(91/8)。こちらも変わった題名を頂くパズルです。「3Lと5Lのバケツで4Lを計ってください」みたいな数学パズルをMSX上で再現したのがコレです。
 画面上に4つの枠があります。一番下の枠にはネコがいっぱいに入っています。枠の右側の数字は、その枠に収められるネコの上限です。枠から枠へネコを移動し、きっちり所定の数を量って並べましょう。
 ゲーム自体は古典的なパズル。安定感があります。ネコが移動する際の枠から枠へ飛んでいく演出が、楽しさを何倍にも増しています。

「PASTEL BALL」

 「PASTEL BALL」(91/8)。上から降ってくるパステルカラーのボールに横から白いボールを当てて軌道を変え、パステルボールを画面右側にある同じ色の箱にぶち込みましょう。パステルを見逃したり、当てても違う箱に放り込んだりすると即ゲームオーバーです。
 狙い通りにボールを入れるには、当てる場所が肝心です。そのためには的確なタイミングで白いボールを転がさなければなりません。ビリヤードかボウリングを彷彿させますな。少しでもズレればアウト。ポップな題名からはなかなか想像もつかないシビアなゲームです。荒井は2点がやっとだったぜ(泣)。

「SKY DRIVE」

 「SKY DRIVE」(91/9)。パラグライダーやスカイダイビングには、「アキュラシー」という競技があります。ポイントの中心にどれだけ正確に着陸できるかの精度を競うわけですな。ざっくり言えばそのゲームです(おい)。
 開始するとパラシュートでダイバーが降下するとともに、着陸ポイントが近づいてきます。ダイバーを操作して、ターゲットの中心に導きましょう。ターゲット中心からの距離が短いほど好成績。10回トライして、その合計点の少なさを競います。

まずまずの好成績。リアル競技は1cm単位の精度の戦いになるそうな。

 飛翔する自機をターゲットに導くという点で、やるべきことはNu~さんの「トマホーク発射!」とほぼ同じです(おい)。しかし味付けや見せ方で、雰囲気はがらりと変わります。あちらにはどこか戦争の緊張感が漂っているのに対し、こちらには平和にスポーツを楽しむといった趣があります。

「目が回るよ~!!」

 「目が回るよ~!!」(91/9)。変わった方式の2人対戦専用鬼ごっこゲームです。一人が鬼、もう一人が逃げる方です。鬼は相手を捕まえましょう。逃げる方はなるべく長く逃げましょう。鬼に捕まったら攻守交代。それぞれ鬼と逃げる方を担当し、長く逃げることのできたプレイヤーが勝ちです。
 変わっているのは、動きに制約があること。鬼も逃げる方も、画面中心を軸にして、ぐるぐる回ることしかできません。できる操作は半径を伸ばしたり縮めたりするのみ。鬼と逃げる方はそれぞれ反対方向に回っています。この制約が動きに面白さを与えています。
 対戦ゲームなので例によって十分遊べてませんが(おい)、缶蹴りやケイドロ、手つなぎ鬼等、ルールや動きをひねった鬼ごっこ遊びの楽しさを彷彿させます。

「SORE FINGERS―ナイフの達人」

 「SORE FINGERS―ナイフの達人」(91/9)。開いた手の指の間を鉛筆で順に突くなんて遊びは、男子なら誰しも小中学校で一度はやったことがあるでしょう。手が滑ると指に当たって痛いやつ。今ググったら、あれは「ナイフゲーム」とか「ピンフィンガー」とか呼ぶらしいですが、それをコンピューターゲーム化したものです。
 ゲームを始めると手の上をナイフが動き出します。指に刺さらないよう、間にナイフを突き立てましょう。成功すると背景に白い傷跡が付き得点です。ナイフは往復するたびスピードが上がっていきます。間違って手に突き刺してしまったら血がブシューッと噴き出てゲームオーバーです。かといって怖がってしっかり突かないと得点になりません。ナイフの位置を良く見てタイミングを計り、確実に背景を突き刺しましょう。

うぎゃあ!
痛そうなゲームオーバー画面。流血の大惨事だ

 リアルではとてもこんなことをする度胸はありませんし、こんな遊びをするほどアホではありません(おい)。しかしコンピューターゲームだったらいくらでも刺し放題。心ゆくまで遊べます。
 ついでにググってみたら、Appleストアのゲームアプリにもナイフ刺しゲームなんてのがありました。30年以上経っても同じことを考える奴がいるようです(おい)


 さて、パソコンがまだマイコンと呼ばれていた1980年代前半、コンピューターゲームとは自分で入力するものでもありました。ですからあまり入力の手間をかけずに遊べるショートプログラムには、少なからず需要がありました。できることなら入力は最小限に、それでいておもしろく遊べるゲームがいい。そんなところから1画面プログラムというものが始まったのだとおもいます。
 おそらく当時、様々なパソコン雑誌が1画面プログラムを取り上げていたとおもいますが、中でも力を入れていたのがMファンの前身、徳間書店の「プログラムポシェット」誌でした。自作プログラムの規格として「1画面」を設け、各機種用の1画面プログラムを募集し、毎号のように掲載していました。「MSX・FAN」の1画面プログラムは、このプロポシェ時代からの伝統を受け継ぐものです。

プロポシェ1画面プログラムの名作「恐怖の50秒」(No.4)。
秀逸な題名

 ゲームプログラミングとはマイコン時代の文化だったのかもしれません。Mファンが創刊された87年は、マイコンブームの中心だった8ビットホビーパソコンが最後の盛り上がりを見せていた頃です。80年代のホビーパソコン界を牽引した御三家ハードの失速に伴いゲームプログラミングという文化も衰退します。しかしその後もMSXでプログラミング文化が根強く生き残ったのは、専門誌Mファンが、自作プログラムコーナー「ファンダム」に力を入れていたことも大きな要因だとおもいます。プロポシェの流れを汲むファンダムでも1画面プログラムは一大ジャンルとして扱われ、あまたの作品がこの場から世に送り出されたのでありました。


 Mファンは1991年10月号より、付録ディスクサービスを開始します。以降の全てのファンダム作品はディスクに収録されることになり、(ディスクドライブを持っている必要はあったが)雑誌さえ買えば誰しも入力の労を執らずに遊べるようになりました*1。1画面に限らず、長大な作品も入力せずに済むようになり、遊ぶだけならリストの規模はもう考慮する必要がなくなりました*2
 しかしにもかかわらず、Mファンは最終号まで1画面プログラムを掲載し続けたのです。

「8192階建ての塔」(90/4)。ファンダム中期の忘れ得ぬ名作

 入力の手間は少なく、でも面白いゲームで遊びたい。当時のマイコンユーザーのそんな切実な欲求から生まれただろう1画面プログラムは、やがて「どうやって1画面に収めるか」「1画面でどれだけのことができるか」という方向に進化を遂げます。マルチステートメントや論理式の多用といった短縮化のテクニック、エッセンスのみを抽出するゲームデザインといった、1画面プログラムならではの様式は多くのアマチュアプログラマーを惹きつけました。そして1画面プログラムに挑戦することで様々な手法や技術、考え方を身につけます。いわば1画面プログラムとは、あまたの未来のプログラマーを育んだ腕試しの場。1画面プログラムこそファンダムの真骨頂である、と言っても過言ではないでしょう。

Mファン最後の1画面プログラムより「坂」と「BAR」(95/8)。
ファンダムは最後まで1画面プログラムを見捨てなかった*3

 さて、Mファン91年10月号以降のファンダム掲載作品は、以前付録ディスクより移行済みです。ですので荒井の手元にある未入力のファンダム1画面プログラムはこれにて払底し、全て入力したこととなりました。というわけでたびたび開催してきた「一画面プログラム祭り」。これにておひらきでございます…1画面プログラムよ、永遠なれ!

*1:テープ版「FOR MSXベスト50」や「ファンダムライブラリー」、ザ・リンクスでのDLサービス等々、徳間書店は付録ディスク開始以前から、入力せずに掲載プログラムを遊ぶ方法をいくつか提供していた。しかしいずれも読者全員がその恩恵に浴することができたわけでもなかった。

*2:実際、付録ディスク開始当時、もう1画面プログラムは不要でないかという声も、編集部にはあったらしい。

*3:「BAR」は1行プログラムです。