去年大量に入力したので、今年は気になるプログラムをのんびり入力してはのんびり遊ぶという方針でやっております…と己の怠慢の言い訳をしたところでこないだ入力し終わったMSXプログラムのご紹介(おい)。本日はMマガ88年5月号より「SWORD OF PEACE」です。

祖父の病を治すには高価な薬が必要だった。
打ち込みプログラムにはなかなか珍しい、アドベンチャーゲームです。舞台はかつて剣術が栄え、戦いに明け暮れた時代もあった世界のある小さな王国。主人公は貧しい刀鍛冶の若者。幼くして両親を失って以来、祖父と二人で暮らしていましたが、その祖父は死の病に冒されていました。祖父の病を治すため、若者は薬を求めて旅立った…というのがプロローグ。プレイヤーはこの主人公になりかわり、冒険を進めていきます。

一攫千金の好機と応じることにしたのだが…
ゲームはキャラを動かしトップビュー表示されるフィールド上の至る所に足を運び、メッセージを読んだりアイテムを手に入れたりコマンドを試しながら謎を解いていくタイプのAVGです。MSXなら「シャロム」や「ヤングシャーロック」等でなじみのある方式ですな。RPG風の移動システムは、世界の雰囲気や探索の楽しさを感じさせてくれるのが利点です。

大師匠は戦乱の再来を憂慮し、主人公にその技を託す。
本作の売りはなんといっても良質なストーリー。繰り広げられる物語は昔ばなしや民話を彷彿させるものでなかなか手が込んでおり、先が気になる展開に引き込まれます。難易度は難しすぎず簡単すぎず。昔のAVGにつきものの不条理さは少なく、かといってスペースキーを押すだけで進むというものでもなく、ひとしきり試行錯誤すれば解ける謎がちりばめられています。「とってつけたようなシナリオが多い中、この作品はほろりと感動させられてしまうくらい、よくできています。」と誌面でも高く評されています。

彼は主人公を見込み、お尋ね者にされた真相を語る。
グラフィックは必要最小限。グラフィックアドベンチャーのような一枚絵の類いはなし。ゲームは始終PCGで構成されたフィールド上で展開します。ドット絵はそれなりにきれいに描かれてますが、小さくてチマチマしたかんじは否めません。それと畑のグラフィックがスゴいわかりづれぇ(おい)。
そのかわり力が入っているのが効果音です。海に近づくと波の音がするし、剣を振れば剣戟の音が鳴ります。ゲーム中はBGM付き。見た目が控えめな分、こちらで雰囲気を高めてくれます。ヴィジュアルの味気なさは想像で補う楽しみがあるということにしておきましょう。
雑誌掲載のアドベンチャーゲームには欠かせない、メッセージの暗号化ももれなく実装されています。マシン語データとして格納されたテキストデータも暗号化されているという念の入れようで、入力中にネタバレする心配がありません。

己の死期を悟った祖父は主人公に一族の使命を伝える
こんな具合にゲームは至って良い出来で、いぶし銀の魅力を放っています。しかし悪く言えば、地味で華がないということでもあります(おい)。
ストーリーこそ凝ってますが、盛り上がる展開には今ひとつ欠けます。シナリオはしばしば冗長で説明的。登場人物もキャラ立ちが弱く、いまいち活かし切れていないきらいがあります。エンディングもあっけなくて余韻がなく、物足りなさが残ります。ストーリーは凝ってはいるけれども、シナリオはまだまだ練り込む余地があると感じました。
変わっているのは、AVGでありながら、自主練習を繰り返すことによって剣の腕を磨くというゲームシステム。本作では剣の腕前が必要となる局面がいくつか存在します。突破するためには、あらかじめ「練習」というコマンドを繰り返し実行し、地道に鍛錬を積み重ね、剣の力を上げておかなければなりません。一朝一夕に強くはなれないと感じさせる趣向である一方、ゲームのテンポを悪くしているのも確かで、もうちょっと工夫できなかったのかなとおもいました。

出会った人々の協力を得て、主人公は新しい伝説の剣の鍛造に挑む。
プログラムは長大で、Mマガの誌面にして17ページ強に及びます。本作は4本のリストから構成されています。特にメインプログラムが約13Kバイトで、テキストデータおよび表示用マシン語ルーチンが約15Kバイト。MSXのRAM容量を目一杯まで使ってます。そのためディスクドライブを接続したマシンで動かすには、CTRLキーを押しながら本体を起動して、仮想ドライブを無効化してから実行するという手順が必要です。

本作はそれほどまでに詰め込みまくった力作である一方、MSXの32KB・オンメモリで動かす限界も感じます。良質なAVGであることは間違いないのですが、内容とリストの長さを考慮すると、入力してでも遊ぶべきだ!…と積極的には勧めづらいです(おい)。
ところで本作はMマガにリストが掲載された大作として最後発のものとなります。もしもっとリストを長くできれば、容易に内容をより充実させることも可能だったでしょう。しかしリストが誌面に掲載されることもなく、幻の作品と化していたかもしれません。
