何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

人が死ぬゲーム

f:id:fukenko:20200405003154p:plain
おなじみ「ウィザードリィ」。「死の恐怖」をうまく活かしたゲームではある。
 疫病で人が死ぬこのご時世だから、とりとめのないことをかんがえました。


 「ゲームは死んでもすぐに生き返れるから、生命に対する尊厳を育まない。人の死というものが軽んじられている。」
 ...ひとむかしまえによく聞いた「ご高説」でありますが、30年以上前からコンピューターゲームをやっている荒井にしてみれば、決してそんなことはなかったのであります。


 反論の引き合いとしてよく出されたゲームは「ウィザードリィ」です。「ウィザードリィ」では死んだキャラクターの蘇生が可能です。しかしさらにそれの上をゆく「LOST」という状態があります。蘇生失敗を繰り返したり、経時で老衰したり、迷宮で壁の中に飛ばされたりすると、蘇生さえ不可能な状態に陥ります。これが「LOST」。こうなるとそのキャラクターは文字通り消滅し、ゲームの世界からいなくなってしまうのです。つまり「ウィザードリィ」の世界における実質的な「死亡」です。
 「ウィザードリィ」では、LOSTに陥る危険がそこかしこに潜んでいます。ですのでLOSTの存在が与える緊張感は相当なもの。プレイヤーは冒険中、常に死の恐怖を意識せざるを得ず、慎重かつ丁寧なプレイ―いわば「命を大切にする」プレイを―心がけるわけです。


 死ぬとキャラクターが消滅するゲームでは「ザ・スクリーマー」も有名でした。冒険中、戦闘に負けるなどしてキャラクターが死ぬと、どんなに鍛え上げたキャラクターであってもその場でデータを消去されます。当時らしい意地悪な仕様ではありますが、同作を語る際、必ず引き合いに出される要素なので、演出としては成功だったのでしょう。メメント・モリです(おい)。


f:id:fukenko:20200405005936p:plainf:id:fukenko:20200405191913p:plain
エメラルドドラゴン」。
欠点も多いが印象に残ったゲームであることに違いはない。
 しかしながら、荒井が人の「死」を意識した最初のゲームは、かの「エメラルドドラゴン」です。
 「エメドラ」に蘇生呪文の類いはなく、戦闘でパーティキャラが一人でも死ぬとその場でゲームオーバーとなります。しかしこれはロードしてやり直せばいいだけなので、さしたる痛手ではありません。むしろそれ以上に心に刻み込まれたのは、物語上でキャラクターが死ぬことでした。


f:id:fukenko:20200405191937p:plainf:id:fukenko:20200405192101p:plain
非業の死を遂げるヤマンとカルシュワル。救えない死は強烈な喪失感を与えた。
 「エメドラ」は、個性的なキャラクターがドラマティックな物語を繰り広げるゲームの嚆矢として知られます。作中様々なキャラクターが登場し、中には仲間となってともに戦ってくれます。
 しかしその中には、イベントで命を落とすものも少なくありません。ファルナに後を託して命尽きるバギン、魔軍に暗殺されるヤマン、皆をかばって消滅するカルシュワル。これらキャラクターは死んだらそれきりで、もう生き返ることはありません*1。苦楽をともにした仲間が、救うこともできずに容赦なく亡くなってゆく。彼らの死は、荒井にとって「ウィザードリィ」以上に痛切に迫るものでした。


f:id:fukenko:20200405011953p:plain
MSX2版WizのS-RAMメニュー。LOSTは怖いが抜け道はいくらでもあった。
 「ウィザードリィ」における死は、畢竟、それほど恐れるでもありません。なぜなら、データのコピーを取っておけば回避できるものだから*2。失ったアイテムや経験値を再び稼ぐ面倒はありますが*3、時間や手間をかければリカバリーできる質のものです。ロストはコストと言い換えることもできましょう。いわば自分でコントロールできる「死」です。
 しかし「エメドラ」の死は、シナリオ上避け得ないものです。作中でそう運命づけられているのですから、プレイヤーの技量や裏技で回避できるものではありません。どんなに肩入れしても、なすすべもなく命を奪われ退場していきます。自分でコントロールできない「死」は、取り返しの付かないものとして荒井に迫ってきたのでありました。


 そういうわけですので、「ゲームは生命に対する尊厳を育まない」という説は、荒井からすればとうてい見当外れもいいところです。「ファンタシースターII」のネイや、「FF7」のエアリスの悲劇がいまだ語り継がれているのは、ゲームで「死」の哀しみを思い知ったプレイヤーがそれだけ多いことの証でしょう。ゲームも古くから、しっかり命の尊さを教えていたのです。ともあれ、いのちをだいじに!

*1:他にも同作では砦の隊長サダや、山のミコ等、戦死したり犠牲になるNPCが登場します。

*2:「ザ・スクリーマー」でも、ディスクを物理的に書き込み不能にすることで消去を防ぐという裏技がよく知られていました。

*3:Dagger of Thievesを手に入れたパーティをテレポーターの罠で総LOSTしたときはさすがに呆然としました。