何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

お通り沢に行ってきた

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ヤマニンジンが咲き誇る地蔵畑。踏み跡も見えないほど花で埋め尽くされていた。

 先日、「お通り沢」を歩いてきました。山形市高瀬地区と山寺を結ぶ古道で、かつて慈覚大師円仁がここを通って山寺入りを果たしたことからこの名があるのだそうです。以来立石寺への参詣路や、地元住民の生活の道として永らく使われていたのだとか。

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仙山線高瀬駅へ。二十年ぶりくらいで仙山線に乗った。

 昭和30年代に衰退し、永らく廃道となっていたところ、令和の世の2019年、地元有志等の手により復活。山寺の新名所となるべく現在売り込み中です。荒井は先日たまたま案内パンフレットを見つけてその存在を知ったのですが、時期がちょうどよいので、だったらさっそく歩いてみようと相成った次第です。これからの時期の里山は、暑さと虫のおかげで快適には歩けません。それに山寺ならコザブさんも近いしな(おい)。

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高瀬の念仏供養塔。山寺との繋がりを今に伝える史跡でもある。

 今回は高瀬から山寺に向かうコースを選択。行き帰りのことを考え山寺に車を置いたため、高瀬まではJR仙山線を利用しました。高瀬駅山寺駅の一つ隣。駅から高瀬の住宅地を30分ほど歩いたところが入り口です。入り口には最近設置された金属製の標柱と旧い念仏供養塔が建っていて、これが目印となりました。
 本格的な山道が始まるところには、キーワードを記した看板があります。道の要所ではこんな具合にキーワードが提示されてあり、これを全て集めて管理に当たっている郷土研究会に報告すると、踏破証明書がいただけるという趣向です。

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沢を渡って倒木をくぐって。小綺麗に整備されてないところがかえって面白い。

 「お通り沢」と銘打つだけに、道は沢伝いに続いています。基本道は荒れ気味で、倒木なども目立ちます。なんでも里山の自然を保護するため、必要以上に手を加えない方針で整備されているのだとか。とはいえところどころに目印のリボンがありますので、どこを歩けばいいかはわかりやすいです。

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カモシカと自生するヤマツツジ。あたりには熊なんかも生息しているらしい。

 小さな流れを幾度も渡り、倒木を踏み越えながら進むうち、いつの間にやら沢の底から水が消え、あたりの木々も杉からクヌギに変わります。急斜面を横切るように拓かれた道でクヌギ林を抜ければ、最高地点かつ二つ目のチェックポイント・座頭峠に到着です。

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チェックポイント・座頭峠と直下からの眺め。
面白山の雪は溶けたかな。

 座頭峠は林の中で、全く見晴らしはありません。ところがそこから少し下っていくと林が途切れ、豁然として展望が開けました。笹が生い茂る草叢の向こうに、二口山塊の山並みが望めるのです。あの丸っこい稜線は南面白山、そこから少し離れて北に見えるのが北面白山。どちらも登ったことがあるからどんな形かわかります。
 一角には丸太を切ってこしらえた休憩用のベンチもあり、いかにも一服付けるのに良さそうです。峠でなくてこっちで休憩すればよかったぜ(泣)

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杉林に囲まれた山神様。道が分かりづらい中たどり着けて一安心。

 道は再び林に入り、あたりの杉が増えてくるにともない道が少々分かりづらくなってきます。注意深く目印を探しながら進んでいくと、お通り沢に残る史跡の一つ、山神様の祠が現れます。祠の前にはアルフォートが供えられ、今でも崇敬されている様子です。

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地蔵畑の板碑。周辺には同様の石碑が点在しているらしい。

 山神様を過ぎ、また沢と合流して何度か渡渉を繰り返し、とどめに竹林を抜けると、一面がヤマニンジンの真っ白い花で埋め尽くされた広場に到着します。ここが地蔵畑で、山寺にたどり着いた円仁が、霊地を見つけた喜びに読経を上げた場所とされています。ここが信仰の地であったことを表す板碑が並ぶ一角からは、ヤマニンジンの花の向こうに、立谷川をはさんだ対岸の宮崎の集落や、立石寺の奇岩などが遠望できました。ゴールは地蔵畑を出てすぐの仙山線の線路を渡ったところ。無事全行程を歩き通し、全てのキーワードも収集できました。踏破証明書頂いたぜ。

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随所にある熊避け用一斗缶。エタノールの空き缶というのが今のご時世ですな。

 すこぶる手が加えられてあるという道ではありません。ですがそれゆえに往時の道の姿や、この道を通って山寺詣でに向かった人々の高揚感に触れられたような気がします。古道歩きが好きな人間ならば、「高瀬から歩いて山寺詣でに行ける」というだけでも非常に惹かれるものがあるでしょう。山あり谷ありところどころに見どころもあり、歩いて飽きるということがありませんでした。

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山寺をゴールにした目的。焰藏さんのカレー南蛮とコザブさんのアイス(おい)

 目印こそ充実していますが、状態は里の山道です。踏破するなら軽登山程度の装備を調えた方が安心でしょう。また、山寺駅から高瀬駅に向かう場合、便数が非常に少ないのも要注意です。ですがわずか4分でも電車旅が楽しめるのとゴールを山寺にできるのは、仙山線を採り入れる抗いがたい魅力です。
 お通り沢が再び通れるようになったのは、地元郷土研究会の皆さんの尽力が大きかったと聞きます。その活動に敬意を表すとともに、垂水霊境で知られる「天台の道」にも匹敵する山寺名所に育っていくことを期待せずにいられません。
 最後にいつものコースタイムを記しときます。どうぞご参考に。


8:14/山寺駅-8:19/高瀬駅-9:02/念仏供養塔-9:10/お通り沢入り口-9:42/クヌギ林-9:50/ヤマツツジ群生地-9:58-10:07/座頭峠(小休止)-10:12/展望地-10:28/山神様-10:45/竹林-10:50/地蔵畑-10:53/仙山線芦沢第二踏切-11:10/山寺駅

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一応奥の院にも行ってきました(おい)