大作は入力もバグ採りも動作確認も時間がかかります。というわけで先日ようやく入力が完了したMSX用プログラム「ESCAPE」のご紹介です。
本作が掲載されたのは工学社の「pio」86年4月号。同誌はMSXにはあまり力を入れていなかった感がありますが、MSXプログラムもいくつか載っていたようです。「ESCAPE」はそんなpio掲載の大作MSXゲームプログラムです。
舞台は魔の島。プレイヤーは島を訪れた探検者です。降り立つなり魔物に奪われたパイロットと燃料を取り戻し、ヘリで島から脱出するのが目的です。
島には脱出に必要なものが落ちているので、まずはこれらを求めて動き回ることになります。マップは8x8のシーンで構成され、各シーンはAVG風の一枚絵で表示されます。一方、島には至るところに魔物が多数存在し、遭遇するとRPG風のアクション風味タクティカルコンバットで決着を付けます。魔物はいずれも強敵揃いですが、島には魔法の書や武器などの強力な攻撃アイテムもあるので、これらを使えば有利に戦えるでしょう。
本作はRPG風アドベンチャーゲームとでも呼べば良いでしょうか。グラフィックは雰囲気抜群。LINE&PAINT命令を駆使して描かれた背景やキャラクターには、直線的で簡潔ながら独特な味があり、どこかソリッドな格好良さも備えます。シーンで構成されたフィールドを動き回り、敵と遭遇するとアクション風の戦闘モードになるというスタイルや、脱出を目指すという目的など、かの「テクノポリス」誌に掲載された大作「THE STORY OF STARBREAKER」とよく似ています。
しかし本作は「STARBREAKER」とは決定的に違っています。それはリソース管理がゲームの骨となっているところです。
本作に出現する回復アイテムやパワーアップアイテムは有限で、その回復量や使える総量は限られています。武器や魔法は強力ですが、調子に乗って乱発しているとMPやエネルギーが枯渇して、肝心なときに使えなくなってしまいます。体力も事実有限なので、片端から敵を倒していればいずれ行き倒れます。ですので限られたリソースをうまくやりくりできなければ、目的を果たせません。ゲームとしては「STARBREAKER」よりも、「ポプコム」誌の秀作「魔宮の神話」に近いです。
全てのアイテムと敵の出現個所は決まっており、乱数要素は少ないです。ですので本作はキャラクターを育てるよりも、試行錯誤を重ねて行動を練っていくことを楽しむゲームであると言えます。マップのどこに何があってどこにどんな敵がいるか、自分の攻撃がどれくらいのポイントを消費してどの程度の威力なのか、どこを廻ってどんな方法でどの敵を倒すべきかを明らかにしていけば、自ずとクリアが見えてくるでしょう。
リソースの上限の設定が絶妙で、ゲームバランスは簡単すぎず難しすぎず実に良好。このリソースの使い方を考えることでどんどんクリアに近づいていく過程がたまらなく痛快です。
本作のプログラムは340行程度のオールBASICで書かれてあります。しかしその半分近くは夥しい数のLINE&PAINT命令で占められ、容量もギリギリめいっぱいまで使っています。ですので「STARBREAKER」同様、オールBASICなのにテープ専用で、ディスクでは動かせません。さらに誌面はこれを小さい文字サイズで3ページ程度に押し込んでいるものですから、入力するのが大変でした(おい)*1。オールBASICゆえのキー反応の悪さも気になるところです。
とはいえそれに見合った質のグラフィックと、単純な経験値稼ぎゲームとは一線を画する内容は実に魅力的。ここにまた隠れた良作を見つけました。