何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

笹立隧道を覗いてきた




ヨッキれんさんの「山さ行がねが」と相互リンクが開通したのを記念して、鶴岡市は高館山にある笹立隧道を見てきました。


笹立隧道とは、人面魚*1で有名になった善宝寺と、
温泉と海水浴場で知られる湯野浜とを結ぶ隧道(トンネル)で、明治末期、地元の篤志家が私財をなげうって開削しました。
名刹と温泉を直接つなげることで観光の振興を計ろうという意図があったようですが、
開削当時から「暗くて不気味」「崩れてきそうで怖い」と敬遠されたそうです。
最終的には昭和初期に起きた落盤によって通行不能となり、開通から30年ほどで隧道の命脈は絶たれることとなりました。
以来隧道はおとなう者も少ない山中で、ひっそりと草木に埋もれつつあります。


隧道は善宝寺駐車場の片隅からのびる、獣道のような林道を15分ほど歩いていった先にあります。
「山さ行がねが」さんや「山形の廃道」さんといったサイトで事前にどんなところかは見てまして、
「昔のトンネルなんだがら、多分ちゃっこいほら穴みだいなどごなんだべ。」と思っていたら果たして、
林道の果て、荒井の目の前に現れたのは、山腹に不気味に口を開ける巨大な窟(いわや)でした。
廃道になって六十余年。今なお入ろうとする者を威圧するかのような圧倒的な存在感。
これはいったいなんなのだと、一見して戦慄しました。
もうここで帰ってしまった方がいいんでないかと思ったほど。
「イース」でアドルくんを操って、廃坑に入っていくのとは全くわけが違います。


ともあれ、中の様子ぐらいは見ておこうと一歩を踏み出します。
隧道入り口はその窟の床になかば埋もれる形で、かろうじて開いていました。
隧道本体は高さ2メートル足らず、幅3〜4メートルほどで、想像以上に大きいものでした。
内部は積もる土砂と落石で行き場を失った水が溜まり、地下水路と見まごうばかりです*2
その先にはひたすら広がる闇。手持ちのIXYiで奥の方を撮ってみようとレンズを向けてみましたが、AFが効きません*3
ヘッドライトと懐中電灯*4を向けてみますが、
光は頼りなくあたりを照らすばかりで、その果てはいっこうに見えるはずもありません。
どこまでも水路が続いていそうな錯覚さえ起きました。
とはいえ奥からは絶えず風が吹き出しています。どうやら完全に閉塞してはおらず、まだ他に開いている部分があるようです。


現段階の装備*5ではここから先に行くことは無謀と判断し、あたりを見回します。
開口部周辺は崩落が激しく、足下には落石止めの木枠が瓦礫に埋もれていました。
かつての道はこの木枠の下にあったわけですから、これまで相当の土砂が崩れてきたものと推測できます。
試しに窟の壁に手をかけてみますと、容易に小さな石片が剥がれました。岩肌は相当にもろいようです。
開口部の上は林になっていて、そこから絶えず水がしたたり落ちています。
おそらくはこの水が隧道を風化させているのでしょう。
この隧道が完全に地中に埋もれるのも、そう遠くないことと思われます。


この隧道もかつては庄内観光の重要路線として、大きな期待を背負っていた時期がありました。
その道が今まさに自然に飲み込まれ、土に還らんとしている現場を目の当たりにすると、
人間の営みというものについて考えさせられます。
後世の人間荒井にできることは、かつて人々の期待を背負った道がここにあったということを伝えていくことぐらいです*6


約20分ほど入り口付近を見物した後、名残惜しく隧道を後にしました。
忘れられた隧道はその容貌こそ恐ろしげでしたが、手彫りの内部の岩肌は白くなめらかで美しく、そして寂しげでした。
今回は本当に軽く覗いてきただけですが、近いうちにまた向き合う日が来るのでないかという気がしています。


数は少ないながらも、笹立隧道に関しては優れた報告がいくつかあります。紹介いたしますのでどうぞご参考に。
それと最後に! 隧道は開口部からして著しく崩落が進んでおり、相当に危険な場所です。
積極的に行くことを勧めません。それでも行くというのであれば、自己責任、アット・オウンリスクでお願いいたします。


http://mx11.hp.infoseek.co.jp/link4.htm
 「笹立新道(善宝寺〜湯野浜)」 「山形の廃道」より 管理人:fukuさん


http://yamachari.parfe.jp/tunnel/sasadate.html
 「笹立隧道〜地中に眠るバイパス」「山さ行がねが」より 管理人:ヨッキれんさん


http://www.t-town.jp/guide/a043.html
 「忘れ去られようとしている事 (廃道 笹立トンネル)」yosikichiさんの報告 「鄕岡タウンねっと」より 

*1:関係ないが、その昔東スポで「重体脱す」とかネタにされていたことを思い出す。

*2:目測で水深40〜60cm。

*3:パッシブ式オートフォーカス機は、真っ暗なところではピント合わせができないのだ

*4:オキシライド電池装填済み。アルカリより強力だ!

*5:ただのジャケットと山用のズボン。トレッキングシューズ。三点LED式のヘッドライトと懐中電灯。

*6:できれば鄕岡の近代遺産として残していただきたいもので。