何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「砂漠のある町」

シンプルなタイトル画面。誌面とタイトル違うけど(おい)

 90年代になると、紙に印刷されたプログラムを手打ち入力してソフトを手に入れるというマイコン時代の文化は過去のものとなっていました。本日ご紹介する「砂漠のある町」はそんな時代、ベーマガ1993年12月号に掲載された作品です。

ゲームスタート。国を荒らす魔物を退治するのが目的だ。

 本作はRPGです。開始すると画面じゅうにマップが表示されます。これが本作の全世界。ストーリーは多くは語られません。プレイヤーは1画面のマップを探索し、敵を倒しながらラスボスの撃破を目指します。

中ボスに挑戦するも力及ばず敗北。負けても所持金半分で許してくれる(おい)

 マップこそ1画面に収まる規模ながら、戦闘あり、イベントあり、謎解きありと、展開には変化があって飽きさせません。主人公は経験値ではなく、敵を倒して得たお金で順次体力や攻撃力を「買う」ことで成長していきます。成長が早いし目に見えるので、育てる面白さや、強くなって強敵をやっつける気持ちよさも味わえます。ゲームバランスは良好。グラフィックもきれいですし、敵も(グラフィックは使い回しでも)多種多様、探索したくなる雰囲気をしっかり出しています。

町が火事だ! RPGらしくイベントも発生する。

 RPGにつきもののセーブ機能はありません。ただし敵にやられても所持金が半分に減らされるだけ。何よりゲーム自体が1時間程度でクリア可能です。ペナルティの軽さとスケールの手頃さが、セーブ機能の欠落を十分以上に補っています。作中のメッセージもしっかり暗号化済み。入力中のネタバレ対策もばっちりです。
 こんな具合に本作は短時間・小規模でありながら、きっちり成長や謎解き・探索が楽しめる作りです。欲を言えば後半にもうひとつふたつ盛り上がるイベントがほしいところですが*1、今のままでも十分な出来。掌編RPGとでも呼ぶべき佳作に仕上がっています。

小規模ながら遊びごたえは十分。CRPGの醍醐味が味わえる。

 ゲーム自体はたいへんよいのですが、プログラムリストに関しては厳しいコメントが付けられています。「行番号はステップ10単位でリナンバーしろ」「命令の間に空白がなくて読みにくい」「プログラム雑誌が見当たらなくなった最近、『お約束ごと』を知らない人が増えるのも無理はない」等、「チェッカーフラグ」ではリストの書き方について、Dr、影さん、編さんらベーマガ編集部から集中砲火を浴びせられています*2

ぎっしり詰め込まれたプログラム。ベーマガには珍しい書き方だが…

 そのとおり、本作のリストはベーマガプログラムとしては異例です。行番号は1から1単位の刻みで振られてありますし、命令文中の空白もほとんどありません。文字の表示座標指定はLOCATE文ではなくエスケープシーケンスを使用。さらにマルチステートメントを連ねたおかげで1行1行が長めで、中にはWIDTH40設定で5~6行にも及ぶ行も目立ちます。
 しかしこの書き方、一部MSXユーザーにはおなじみのものでしょう。それというのもこの書法はまさにMSX・FAN誌のプログラムコーナーこと、ファンダムで一般的だった綴り方そのものなのです。

店でバナナを仕入れる。
戦闘で力尽きた際、自動で体力を回復する効果がある。

 ファンダムでは、ページ数や行数ではなく「画面数」、すなわちWIDTH40設定でコードが何画面に収まるかを、プログラムの規模を計る目安としていました。そのためか、限られた画面数にとにかく詰め込む書法が発達しました。行番号のステップを1刻みにしてさらに若い番号を使って桁数を稼ぐとか空白を省くとか、エスケープシーケンステクニックや1行の上限255字近くまで命令を連ねるマルチステートメントの多用は、全て文字数を削りつつ、限られた画面数に多くの命令を詰め込むための手法です。
 本作はベーマガのページ数にして2段組1ページに収まっていますが、ファンダムの単位に換算すれば9画面ほどのボリュームとなります。ファンダム式の詰め込む書法ではリストの見やすさは犠牲になるものの、その分作品の密度を上げることができた…とは以前荒井が考察したとおりです。そのとおり、リストのページ数に比して濃いめの内容が実現できたのは、やはりファンダム式の書き方ゆえでしょう。詰め込む書法はベーマガの謳う「お約束ごと」にはそぐわずとも、ファンダムではごく一般的な「常識」だったのです。


 作者さんはMSX末期に活躍した投稿者で、ベーマガの他にもMファンでも数々の作品が採用されています。ですのでファンダムの書法に慣れていたことは確かでしょう。93年末の当時、曲がりなりにもプログラムのソースリストを掲載していた雑誌はベーマガMSX・FANくらい*3。「チェッカーフラグ」のコメントからは、ファンダムの書法がベーマガ的にはどういうものだったかが伺えるとともに、両誌それぞれがよしとするプログラムの差や、両誌の性格の違いも垣間見えます*4

親玉登場! こいつを倒せばエンディングだ!

 ただしリストが入力しづらいことは確かです*5。特に同じような文字が現れるにもかかわらず、間違えてもなんとなく動いてしまうため、マップやメッセージデータは注意深く観察しないとバグを発見できませんでした*6
 ファンダムの詰め込む書法は、チェックサムプログラムあってこそのもの。これから入力する方々への便宜のため、間違えやすい箇所*7と、参考に荒井が入力した分のMファンチェックサムプログラム用データを晒しときます。
 …チェックサム間違ってたら面目ない(おい)。

間違えそうな箇所とMファンチェックサムプログラム用チェックデータ。
どうぞご参考に

*1:作者さんのコメントによれば、イベントを実装するのに苦労したそうです。

*2:ゲーム自体に関しては、良いと影さんがフォローしています

*3:そのMファンも付録ディスクを開始してから時が経ち、全てのプログラムリストを掲載していたわけではなかったが。

*4:当時はMファンでボツになった作品を、ベーマガに投稿したら採用されたという例がしばしばあったようです。

*5:プログラム自体は無駄のない構成。リマーク文も目立つように記述され、どこで何をやっているかは比較的把握しやすいです。

*6:プリントのせいもあって、「(」と「[」、大きい「ツ」と小さい「ッ」が特に判りづらいです。それとデータ中の"「"は全てカギカッコ、「`」はアポストロフィーではなくバッククォートです。

*7:てか荒井が間違えた箇所(おい)