何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

賀曽利さんとの湯巡りその二




ゆざ温泉あいがも会館にさしかかる頃にはすっかり雨が上がり、
夏らしい日差しまで差し込んできました。
「無類の温まり湯」ゆざ温泉の次には、すかさずクアハウス碁点の湯に入ったのですが、
暑い中での湯巡りは非常に身体に堪えます。
湯につかるということは、相当身体に負担がかかることなのです。
「身体にいいことをやってるはずなのに、身体にいいことをやってる気がしない!」などと
冗談を言い合いながら、葉山山麓の知る人ぞ知る秘湯「富本温泉」を目指したのでした。
「富本温泉」のことは、ブログ仲間の「おかさん」が教えてくださったもので、
自分はそういう温泉があるということさえ知りませんでした。


道の奥には寂れた民家風の建物が一件あるだけで、人の気配はありません。
玄関こそ開け放ってありましたが、いくら呼んでも、一向に誰も出てきません。
ですが建物の造作や、中に置かれた大量のビールやジュースのカートンを見る限り、
ここが温泉であることは間違いないようです。
そこで二人で相談したところ、
「開いているということは、入ってもいいということだろうから、ここに入浴料を置いて入ってしまおう!」
ということになって、玄関に入浴料を置いて、風呂場に向かったのでありました。
富本温泉は、まさに山間の秘湯という言葉がぴったりくるところで、
おそらく昔から、地元の湯治場として使われていたのでしょう。
湯舟は二つ、右のなみなみと溜まっている方が水風呂で、左のふたがかけられている方が温泉。
左の浴槽にはぬるめのお湯が半分ほど溜まっており、暑い中湯巡りしてきた身にはちょうどいい涼しさです。


さっとつかって建物を出ようとしたところ、軽トラに乗ったご主人が戻ってきました。
咎められるかと思いきや、ご主人の口から出て来たのは意外な言葉でした。
「おう、よぐ来てけった! 空げでいで申し訳ない!
 お湯が少ながったでしょう。すぐ足しますから、まだ入っていってください!」


東北のもてなしの心の真髄を見たような気がしました。
荒井が思うに、多かれ少なかれ東北人は、都や西国に比べ、
「何もない、遅れた僻地」に住んでいるという自覚や「負い目」があります。
それゆえこんなところまでわざわざ足を運んでくれる人に対して、
「よくこんなところまで来てくださった。大変だっただろう?」と、
ねぎらいや感謝の気持ちを表すのではないでしょうか。
そして「こんなものしかないけれど」と、精一杯のもてなしをするのではないかと。


「十分堪能しましたので...」と申し出を辞退して出発しようとすると、
ご主人は「だったらこれば持っていってください」と、
さっきもいだばっかりのスモモをどっさりくれました。
東北地方は「何もない、遅れた僻地」なんかじゃありません。
ここに他ではなかなか見られない、こんな素晴らしいものがあるではありませんか!


ちなみに「おかさん」によれば、富本温泉には後継者がおらず、
ご主人の代限りとのお話でした。