何とか庵日誌

本名荒井が毒にも薬にもならないことを書きつづるところ

「いってくる!」

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都会では台風のおかげで電車が止まったとかそんな話を聞きますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
こんな時に入力し終わったのは、ベーマガ85年10月号掲載のアクションゲーム「いってくる!」です。
作者は「悟空」「かべ」などの作品を生んだたかしくん氏。彼はこの時期に集中していくつものユニークな作品を送りだしましたが、本作「いってくる!」も、彼らしいアイディアと技術が光る作品です。


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 彼は、今日も元気に家をでた。いつものように、駅は地獄のラッシュ・アワー。おまけに駅員が押してくれると思ったら、白線より下がれという。だまっていると、ホームから落とされてしまうではないか。
 くそ、会社に遅れる!! お尻からしつこく押してみる。ギュギュギュギュ…。「キャー、エッチー!!」 ち、ちがうんだ…。ちがうんだってばー!!
 満員電車には、いろんな人がいる。それでも、彼は会社にいかなければならない。

 ゲームのあらましはこのストーリーに示されています。本作は世にも珍しい通勤地獄アクションゲーム。プレイヤーは一会社員となり、ラッシュアワーをくぐりぬけ、満員電車に乗って出社します。渋谷駅がスタートで、ゴールは会社のある品川駅。山手線の車両が緑色だったり、解説文で「E電渋谷駅」と説明されているところが当時風です*1。てかE電なんて名称よく覚えていたというか。
 ともあれ電車に揺られて品川に行かなければならないわけですが、満員なのでそう簡単には乗れません。中の乗客に突き飛ばされたり、貧相な駅員に邪魔されたりで乗るのは一苦労。ババァが現れたときなど殺意が湧きます(おい)。
 電車に乗り込めば1面クリア。横スクロールして次の駅へと進みますが、着くなり電車から追い出されて、また乗り込む羽目になります。そんなこんなで品川までたどり着けばオールクリアとなります。その前に9時になってしまうと、遅刻したことになってゲームオーバーです。乗り込むまで発車しないのはなぜだというツッコミはなしで(おい)。


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 ゲームそのものは展開がほぼ乱数に左右されます。駆け引きよりも運が物を言うため、オールクリアを目指すとか、最短クリアを狙うといった遊び方をすると、ストレスだけが溜まるでしょう。
 駆け引きを楽しむゲームとしては問題ありですが、見事なのは演出がそれを十分に補っているところです。様々な乗客。2倍スプライトによる拡大表示。そして作者が最も力を入れたという電車の横スクロール処理等々。はしばしの演出が巧くて、キャラクターを動かしながらそれを見るのが楽しいです。というかむしろ、画面上で繰り広げられるユーモラスな通勤地獄の一幕を楽しむことこそ、このゲームの遊び方でしょう。


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ベーマガ作品の大きな魅力は、なんといってもアイディアのユニークさです。「万引き少年ゲーム」「ズルポコ大作戦」「鼻血ビバビバ」「ゴキベーダー」などなど、「こんなのゲームになるのか?」と思ってしまうようなシチュエーションを見事にゲーム化した作品は、まず市販品では見られません。通勤地獄を題材にした本作も、自作ならではの自由な発想にあふれた、非常にベーマガらしい作品です。

*1:ベーマガ掲載時は「国電」と表記されていたが、「プログラム大全集」収録時に「E電」に書き直された。ベーマガ掲載後に国鉄が民営化してJRになり、国電の名称が変わったことを受けている。ちなみに「E電」という呼称は発表当時からダメ呼ばわりされて、結局普及しませんでした。